(3)目黒のさんま祭りは、野焼きなの?
前回までに、焚き火と野焼きについて、法律上の規制、条例上の規制について解説しました。
法律上の規制を調べていたら野焼きに関する裁判例を見つけましたのでご紹介します。
目黒のさんま祭りは、違法なの?
毎年9月なるとニュースでも目にする目黒のさんま祭り、みなさんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。目黒を代表するお祭りで、毎年3万人以上の方が訪れるイベントです。
わたしもいつか参加してみたいと思っていたのですが、残念ながら今年は中止になってしまいましたね。
そんな目黒のさんま祭りですが、大量にさんまを焼く行為は、野焼きに該当するので違法だとして、住民訴訟を起こされたことがあったようです。
結論としては、違法ではないとしてその主張は退けられものです。
原告は、「さんまは動物の死体ともいえ、それらを大量に炭火で焼く行為は、「野焼き」に該当するから違法である」と主張。
被告は、いやいや、「「野焼き」とは、廃棄物を適法な焼却施設以外で燃焼させるものであって、本件事業においてさんまを炭で焼く行為は「野焼き」には該当しないし、廃棄物処理法16条の2及び東京都環境条例126条が禁止する行為にも該当しない」、と主張。
裁判所は、「本件さんまは、ここでいう「不要物」に当たらず、また、それが「汚物」に当たらないことが明らかであるから、「廃棄物」に当たらないというべきである。そして、食用のさんまを食べるのに適する程度に焼く行為は、「廃棄物の焼却」とは根本的にその意味合いが異なる行為である。そうすると、本件行為は、廃棄物処理法16条の2又は東京都環境条例126条によって禁止されている行為と同じであるということはできないから、本件行為が、前記各規定との関係で違法となるということは到底できない。」と判断し、原告の主張を退けました。(事案の要旨、当事者の主張、争点に対する判断は、ウェストロージャパンから引用)
食用の新鮮なさんまを廃棄物として主張するのは、言い過ぎですよね。
事案の詳細についてご興味がある方は、以下事案詳細をご覧ください。
<事案詳細>
○要旨(東京地裁・平成22年6月11日判決)
「東京都品川区の住民である原告が、目黒駅前商店街振興組合の実施したイベント事業である「目黒のさんま祭り」について、品川区が上記組合に交付した助成金のうち公道で大量のさんまを炭火で焼いてふるまうことにかかる支出は違法な野焼き(動物の死体の焼却に準じるもの)に対する補助金の支出であり、公益上の必要がある場合に当たらない違法な公金の支出であるとして、被告である区長に対し、上記組合に対し損害賠償又は不当利得返還を請求することも求めるとともに、同区職員(区長)に損害賠償を請求した住民訴訟において、商店街に人々のにぎわいを創出する事業の目玉ともいうべきものへの支出であり、地域的な商業核を強化する目的にも寄与するから、上記の助成金の交付は客観的に見て公益性があり、区長の判断過程に裁量権の範囲の逸脱・濫用は認められないとして、請求を棄却した事例」(出典:ウエストロージャパン)
次に原告と被告の野焼きに関する主張をご紹介します。
「(1)本件事業において、午前10時から夕刻まで、公道で約5500匹の大量のさんまを炭火で焼くという「野焼き」により、魚の脂を含んだ煙、粉塵、臭気等を周辺に対する配慮なしに大規模に発生させている。この「野焼き」行為は、廃棄物処理法16条の2及び東京都環境条例126条で禁止されている違法行為又はそれと実質的に同一の周辺住民に与える弊害が極めて大きい行為である。すなわち、廃棄物処理法2条の「廃棄物」の定義には「動物の死体」も含まれるところ、魚を炭で焼くことは、「動物の死体」の焼却という解釈がなされるかどうかは別としても、大量に焼くことになると、周囲に与える弊害は極めて大きく、実質は同じである。また、東京都環境条例126条により、ダイオキシン類等による人の健康や生活への支障を防ぐため、小規模の廃棄物焼却炉や野外での焼却行為が原則として禁止されているところ、本件のさんまの野焼き行為は、同条に違反し、少なくともこれに違反したものと同様の弊害が生じている。したがって、このさんまの「野焼き」行為は、前記各規定に違反し違法であり、仮に、これらの規定違反出ないとしても、民事上は違法な行為である。
(2)また、大量のさんまの野焼きをして、それを無料で配付して客寄せをすることは、商店街の営利行為であって、公益性は何もない。無料のさんまを目当てにする人々を大量の呼び寄せたからといって、商業上のメリットもなく、手段においても疑問がある。さらに、目黒駅前商店街は、J R目黒駅近くであり、相応のにぎわいを見せている。助成金を支出するのであれば、さんまの野焼きではなく、他の手段についてすることが妥当で思われる上、にぎわいが必要な他の商店街に支出をした方がより合目的的である。
(3)したがって、本件助成金のうち、周囲に環境被害をもたらすこの大規模な「野焼き」のために使用された炭、バーベキュー網、紙トレー、軽量ブルーシート、耐熱革手袋及びセーフティーゴーグルの費用合計17万0691円の支出は、地方自治法232条の2「公益上の必要がある場合」に該当せず、違法な公金の支出である。」(出典:ウエストロージャパン)
「(1)本件助成金の交付については。品川区と本件振興組合との間の手続についても、区の内部的な事務手続についても、違法又は不当な点はない。また、財務会計上の観点からみても、交付の必要性、交付手続など、いずれの点でも適法に執行されており、本件事業そのものについても、違法性を疑わせる点はない。
(2)「野焼き」とは、廃棄物を適法な焼却施設以外で燃焼させるものであって、本件事業においてさんまを炭で焼く行為は「野焼き」には該当しないし、廃棄物処理法16条の2及び東京都環境条例126条が禁止する行為にも該当しない。」(出典:ウエストロージャパン)
上記、原告の主張と被告の主張の踏まえ、裁判所が下した判断です。
「1〜2(2)まで略
(3)原告の主張について
原告は、本件行為は廃棄物処理法16条の2又は東京都環境条例126条に違反して廃棄物を焼却する行為であり、そうでなくともこれらの違反行為と実質は同じであって、違法である旨主張する。
しかしながら、同法にいう「廃棄物」とは、「ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物出会って、固形状又は液状のもの」(同法2条1項)と規定されているところ、ここでいう不要物とは、自ら利用し、又は他人に有償で条とすることができないためにその占有者にとって不要になった物をいい、これに該当するか否かは、その物の性状、保管、排出の状況、通常の取扱い形態、取引価値の有無及び社会通念上合理的に認定し得る占有者の意思等を総合的に勘案して決するのが相当である(最高裁判所平成9年(あ)第105号同11年3月10日第二小法廷決定・刑集53巻3号339頁参照)。ところが、本件さんまは、ここでいう「不要物」に当たらず、また、それが「汚物」に当たらないことが明らかであるから、「廃棄物」に当たらないというべきである。また、東京都環境条例126条による焼却行為が制限される「廃棄物等」も、同じ「廃棄物」という文言が使用されていることからすれば、廃棄物処理法にいう「廃棄物」及びこれに準ずるものをいうと解するべきであり、本件さんまは東京都環境条例126条にいう「廃棄物等」にも当たらないというべきである。そして、食用のさんまを食べるのに適する程度に焼く行為は、「廃棄物の焼却」とは根本的にその意味合いが異なる行為である。そうすると、本件行為は、廃棄物処理法16条の2又は東京都環境条例126条によって禁止されている行為と同じであるということはできないから、本件行為が、前記各規定との関係で違法となるということは到底できない。
また、原告は、廃棄物処理法違反又は東京都環境条例違反ではないとしても民事上は違法な行為であるとも主張するが、その根拠は明らかではない。
この点、実績報告書(乙7)に添付された写真によれば、本件行為によって相当量の煙が発生していることが認められ、煙や臭気が近隣に広がっていることが推認できる。しなしながら、前記認定事実によれば、本件行為は、1年に1度の祭りで、午前10時ころから午後3時までの間に行われるのであるから、時間的にも相当限定されているのであって、本件行為によって直ちに周辺住民に健康被害が生じるとは考え難く、それを認めるに足りる証拠はない。また、原告が主張するその他の悪影響ないし弊害を認めるに足りる的確な証拠もない。
したがって、本件行為が違法行為であるという原告の主張を採用することはできない。」(出典:ウエストロージャパン)
以上です。
これまで3回にわたり、法律上の規制、条例上の規制、裁判例についてご紹介しました。わたしの中で「焚き火」と「野焼き」の違いがよくわかり、腹落ちしました。
概念整理ができたので、これでようやく本題の焚き火実践編に移行したいと思います。